アトピー性皮膚炎患者の末梢血T細胞の産生するサイトカインについて

アトピー性皮膚炎患者の末梢血T細胞の産生するサイトカインについて

アトピー性皮膚炎はアレルギー性疾患のひとつだといわれている。
実際に先進諸国で近年と見に増加傾向にあること、診断基準に免疫グロブリンEというアレルギーのときに病態の主役となる免疫グロブリンが増えていること、
さらには何らかのアトピー素因(アレルギー性鼻炎、喘息などのアレルギー性疾患の既往があること)があることが含まれていることもある。

「ほんとうにアレルギー疾患であるならばアレルギー傾向が免疫自体に存在するはずである。」

これは免疫学者の意見である。臨床家のそれではない。(笑)

「アレルギーに含まれる疾患ならば免疫細胞自体に異常があるべきで、そうでないものが原因で二次的に免疫系がアレルギーのような様相を呈するのであればそれはアレルギーではない。
アトピー性皮膚炎のような定義のあやしい病気はアレルギー研究の対象としてはいけない。」

とまで言われる。しかし現実には先進諸国の10〜20%の乳幼児がこの疾患に悩まされているし、
実際にIgEも上昇するし、肥満細胞も増えるし、ヒスタミンなどの痒み物質を放出するし、その引き金はアレルゲン特異的なIgEによる部分が少なからずあるだろうことは自明である。
そう考えると、アトピー性皮膚炎をアレルギー研究のひとつの柱としてしっかりと見据えていくことは必要であろう。

さて、本論の論文である。

Eur J Pediatr. 2006 Nov 21
Intracellular production of IL-2, IL-4, IFN-gamma, and TNF-alpha by peripheral blood CD3(+) and CD4 (+) T cells in children with atopic dermatitis.

ここでは、アトピー性皮膚炎と診断された患者の血液中を流れるCD4陽性Tリンパ球のサイトカイン産生能を調べている。
Tリンパ球というのは免疫細胞の主役のひとつで、体に入ってきた異物や体内で出来た異物を自己と区別して攻撃し、
あるいは攻撃するように指令を出す細胞である。その指令は攻撃開始命令であることもあれば中止命令であることもある。

CD4というのはT細胞などの細胞表面に発現している分子で、抗原提示細胞に提示された抗原を認識するときに使われる分子である。
(ややこしいことは説明しない。というかこの時点で理解をあきらめる人の方が多いかもしれないね。^^;)
この分子が発現している細胞は直接攻撃するのではなく、指令を出す細胞だと思ってもらえばいい。ヘルパーT細胞とも呼ばれるのでTh細胞と書くこともある。

そのTh細胞が出す指令にはどんな種類があるのだろうか?

ここでもややこしい説明はスキップするが、有名なTh細胞の分類方法に、その指令を出す出し方で分類するというのがあり、
Th1とTh2に分けることができる。(Th0とか、最近はTh17なんて分類もあるがそれは後の機会に。)
この内、アレルギー反応が優位に働くようにに体の免疫系をそちらの方向に持っていくのにがんばるのがTh2細胞である。

Th2細胞はIL-4、IL-5などのサイトカインという物質を分泌して抗体産生細胞であるB細胞に命令する。
この命令は、「IgEをたくさん作って外敵排除に備えなさい!」というものである。
この場合の外敵排除は古来、寄生虫であった。

たとえばIgEで刺激を受けた肥満細胞はヒスタミンを放出する。これにより、食いついたダニなどの寄生虫が外れやすくなることがわかっている。
大阪大学の研究室には肥満細胞欠損マウスと正常なマウスをちょっときたなめのところで飼育して、食いついたダニの量を重さで比較して、
「肥満細胞が欠損したマウスにはたくさんのダニが食いついていた」
という報告をしているぐらい、肥満細胞は寄生虫の排除に効果的なのである。

ということで、寄生虫などが体内に食いついたときにTh2細胞が活発化し、上述のサイトカインが放出されるわけだ。
しかし現代の先進国では衛生環境の向上によりダニなどの寄生虫に接する機会が極端に減った。
その代わり標的にされてしまったのが花粉などのアレルゲンと呼ばれる抗原である。

スギ花粉などというものは本来、アレルギーのような症状を起こす物質であるとは考えられていなかった。
たとえば日光東照宮に行くと樹齢500年なんて杉が林立していて花粉症のヒトにとって見れば春先は絶対に行きたくない観光地かもしれないが、
日本で初めてすぎ花粉症が報告されたのは1960年代の半ばであり、それ以前にはスギ花粉を頭が黄色くなるほど浴びるような地域に置いてさえも花粉症の報告はない。

このことから、攻撃する相手を失った免疫系が花粉を仮想寄生虫侵入として攻撃してしまうのが花粉症の本体であるともいえよう。
(異論はあるのだが、私自身はこれが最もリーズナブルな感じがしている。)


なんだか脱線してしまったが、つまり肥満細胞を刺激するようなTh2へシフトした免疫系の異常がアトピー性皮膚炎の患者さんの血液中のTリンパ球に生じているかどうかの確認が行われたわけだ。
で、この論文に置いて結果はnegative、つまり病気でない人と比べてもCD4陽性T細胞の性質に差はなかったというのである。
このことが何を示すかというと、アトピー性皮膚炎の免疫系の主役(Tリンパ球)にはアレルギーに向かうような本質的な異常は存在しない。
ということが推測されたわけだ。

もちろん、この場合問題はある。
患者から採取されたTリンパ球は、すでに何らかの反応を起こした後で、本来の異常が見えない状態であるという可能性である。
それともうひとつ、試験管内での反応では異常が見えないが、体の中の環境では異常な振る舞いをするかもしれないということである。

まあ、そのような反論や揚げ足取りならいくらでもできるのだが、この論文から受ける印象は
アトピー性皮膚炎発症の本体は免疫系のリンパ球そのものにあるのではなく、免疫系の別の細胞か、非免疫系の細胞にある、ということだ。
posted by atopymouse at 21:47 | Comment(0) | TrackBack(1) | 日記
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Excerpt: T細胞T細胞(ティーさいぼう、T cell、T lymphocyte)とは、リンパ球の一種で、骨髄で産生された前駆細胞が胸腺での選択を経て分化成熟したものであって,細胞の表面にT細胞に特徴的なT細胞受..
Weblog: 免疫学の知識
Tracked: 2007-11-28 15:06
脱ステロイド療法


「脱ステロイド」の本来の意味とは、アトピー性皮膚炎の症状が改善傾向にないのに現在治療に使用中のステロイド外用剤を中止して、ステロイド外用剤を使用せずにアトピー性皮膚炎の症状をコントロールする方法のことである(そのため、症状が改善してきたためステロイド外用剤を中止して経過をみるという行為は、「脱ステロイド」と称するのは不適切であろう)。
ステロイド外用剤は非常に高い有効性を持つ薬剤であるが、特に重症例では正しく医師の指導の下に使用していても十分に症状を抑えられない例や、長期の連用により皮膚萎縮、接触性皮膚炎、二次感染といった副作用をきたす例が存在する[18](ステロイド皮膚症の項参照)。 このような症例において副作用から脱却したり、ほかの治療法を模索するといった過程で脱ステロイド療法が行われることがあり、実際にそのようなケースに限ってはステロイド剤の中止が有効であったという報告もある。
しかし当然ながら、このような治療法に踏み切るためには、現在のステロイド外用剤による治療が効果をもたらしていないのかを慎重に判断する必要がある。

一方で「脱ステロイド」という言葉がアトピービジネスにおいて多々使用されることがある。その理由であるが、アトピービジネスは、他の科学根拠のない代替療法を勧めるため、「ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎を悪化させる」「ステロイド外用剤のリバウンドが続いている」「ステロイドを使用した年月に比例して治療に時間がかかる」「病変部から<毒>が排出されているので湿疹は好転反応である」などの独自理論を説明し、ステロイド剤に対して恐怖を煽り、ステロイド剤を中止させようとする場合が多いためである。
さらに自然主義的観点からプロトピックの使用も是としないことが多い(脱プロトピック)。当然これらの主張に医学的な根拠は無い。このような業者に脱ステロイド療法(およびそのビジネス独自の療法)を指示されて極端に悪化し、かゆみが強く夜も眠れないなど生活に支障をきたしたり、ひどい場合緊急入院という結果となる症例が多数発生し続けている。
少数ながら合併症による死亡例もある。また、アトピービジネスやマスコミによるステロイド剤の恐怖などの誇張した宣伝の結果、治療が難航している患者が自己判断で「脱ステロイド」を行い、症状が急激に悪化するという悲劇的な2次的被害もみられる。一時期、社会問題になったこともあった。

以上のように科学的根拠のないステロイド害悪論に基づいた「脱ステロイド」は危険であり、実施するに当たっては実際の病態がステロイドの副作用によってもたらされているのかを多数の医師とよく相談して判断した方が良い。その際、プロトピック軟膏やPUVA療法、シクロスポリンといった他の治療に切り替えながら様子をみることが多いので、それに関しても医師と十分に相談すべきである。

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