アトピー性皮膚炎、スキンバリアの回復に効果的な新薬TS-022の効果について

アトピー性皮膚炎、スキンバリアの回復に効果的な新薬TS-022の効果について


アトピー性皮膚炎に効果的な新薬として、以前の記事でタクロリムスを紹介した。
アトピー性皮膚炎治療にカルシニューリン阻害剤(タクロリムス)が効果的
タクロリムスの主な作用はステロイドと並んで暴走する免疫系の抑制にあるのだが、
異なる方向からのアトピー性皮膚炎治療法も模索されている。

ここではプロスタグランジン受容体拮抗薬のアトピー性皮膚炎改善効果について注目してみよう。
基本的には免疫云々ではない、「痒みを止める」ことに注目した薬剤開発だ。

ヨーロッパ薬理学会雑誌に発表された、日本の大正製薬の研究である。

Eur J Pharmacol. 2006 Nov 3
Effects of TS-022, a newly developed prostanoid DP(1) receptor agonist, on experimental pruritus, cutaneous barrier disruptions and atopic dermatitis in mice.

要約するとこうだ。

プロスタグランジンの一種であるプロスタグランジンD2(PGD2)が結合する受容体に
DP1受容体とDP2受容体があるが、このうち、DP1受容体に選択的に結合する物質を開発したところ、
この新薬でアトピー性皮膚炎モデルマウスの痒みを止め、結果としてスキンバリアをも回復させることが出来た。

というものだ。


プロスタグランジンとはなんであるか?まずはここから説明しよう。

プロスタグランジンは、細胞膜に存在するアラキドン酸から細胞内で合成される一群の生理活性物質で、
その機能は多彩なのだが、単純に言えば、痛みや発熱の原因物質であると言ってもよい。
炎症が起こっている場所で痛みや発熱を誘導する役割を担っているのがプロスタグランジン類だ。

だからこの機能を阻害したり、合成を阻害したりすることで痛みをとったり、解熱することができる。
風邪薬に入っている主成分がこれであり、アスピリンというのはその代表的なものである。
ちょっと覚えておいてほしいのが、ごくごく弱い痛みは痒みとして認識されるということだ。
(これは本論ではないので忘れていただいてもかまわない。)


さて、大正製薬が開発研究しているTS−022の正式名称は
TS-022, {4-[(1R, 2S, 3R, 5R)-5-Chloro-2-((S)-3-cyclohexyl-3-hydroxyprop-1-ynyl)-3-hydroxycyclopentyl] butylthio} acetic acid monohydrate
である。なんのこっちゃだよね。(笑)

近年,アトピー性皮膚炎は“痒みの病気”として認識される様になってきた.
2002年ごろから大正製薬チームが研究している一連の研究では、

アトピー性皮膚炎モデルマウスの痒みに対し、
あるいは、
スチールブラシでがしがしこすられて痒くなった野生型(ふつうの)マウスに対し、
プロスタグランジンD2 投与がマウスの掻破行動に強い抑制作用を示し、

『プロスタグランジンの合成作用を阻害する非ステロイド性抗炎症薬を投与すると掻破行動が増える。』

そういう結果が得られていた。


プロスタグランジンは本来、痛みや炎症の元となる物質であるから、
炎症の場所では悪役ではあっても良いことをするとは思えない、
そういう風に思われてきていたので、これはまったく逆の結果が示されているわけである。

この理由であるが、少なくともマウスで皮膚を痒がる実験系において、
PGD2は痒みの感覚を抑えることができる作用を持つものと思われる。
おそらく末梢神経系での痒みの認識が抑えられることによるのだろうが、メカニズムの詳細まではここではわからない。


さて、なぜDP1受容体選択的刺激剤であるTS-022にこだわるのかというと、
DP2受容体の方はアトピー性皮膚炎に良くない効果がある可能性があったからだ。



実はDP2受容体の方はTリンパ球の一種のTh2細胞に発現していて、
つまりアレルギー反応の方向に免疫を持っていくT細胞を刺激する効果がある。

花粉症においては活性化された肥満細胞から産生されるPGD2がTh2細胞に働きかけて
さらにアレルギー誘導の方向に持っていくということが推測されている。
したがって花粉症ではPGD2-DP2受容体の経路を経つことは効果的であると考えられていて、

『実際にプロスタグランジンの合成作用を阻害する非ステロイド性抗炎症薬を投与すると症状が良くなる。』

これはなんとも困ったもので、アトピー性皮膚炎においても炎症が陳旧化してTh1優位になれば
非ステロイド性抗炎症薬で炎症を抑えることも有効であるし、それで症状を抑えることも出来る。

この場合、炎症の場所で痒みの元の炎症物質として働いているのはPGE2ではないかと思われるが、
非ステロイド性抗炎症薬がその合成を抑えることで痒みが抑えられる。
しかし同時にPGD2の合成も抑えられるわけで、個々のところはどちらが勝っているのかよくわからない。

(非ステロイド性抗炎症薬をアトピー性皮膚炎に漫然と塗り続けることはたいへん危険であり、
 少なくとも皮膚科ではほとんど推奨されていないことは記しておく。
 詳細はまた後ほど。)


ということで、このTS-022を使うことでひょっとしたら人間の皮膚炎患者でも
Th2細胞を刺激する心配もなく痒みを抑えることができる、かも知れないわけだ。

この薬がさらに開発されて新しいアトピー性皮膚炎の治療の方向性が増えることを期待する。
posted by atopymouse at 15:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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脱ステロイド療法


「脱ステロイド」の本来の意味とは、アトピー性皮膚炎の症状が改善傾向にないのに現在治療に使用中のステロイド外用剤を中止して、ステロイド外用剤を使用せずにアトピー性皮膚炎の症状をコントロールする方法のことである(そのため、症状が改善してきたためステロイド外用剤を中止して経過をみるという行為は、「脱ステロイド」と称するのは不適切であろう)。
ステロイド外用剤は非常に高い有効性を持つ薬剤であるが、特に重症例では正しく医師の指導の下に使用していても十分に症状を抑えられない例や、長期の連用により皮膚萎縮、接触性皮膚炎、二次感染といった副作用をきたす例が存在する[18](ステロイド皮膚症の項参照)。 このような症例において副作用から脱却したり、ほかの治療法を模索するといった過程で脱ステロイド療法が行われることがあり、実際にそのようなケースに限ってはステロイド剤の中止が有効であったという報告もある。
しかし当然ながら、このような治療法に踏み切るためには、現在のステロイド外用剤による治療が効果をもたらしていないのかを慎重に判断する必要がある。

一方で「脱ステロイド」という言葉がアトピービジネスにおいて多々使用されることがある。その理由であるが、アトピービジネスは、他の科学根拠のない代替療法を勧めるため、「ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎を悪化させる」「ステロイド外用剤のリバウンドが続いている」「ステロイドを使用した年月に比例して治療に時間がかかる」「病変部から<毒>が排出されているので湿疹は好転反応である」などの独自理論を説明し、ステロイド剤に対して恐怖を煽り、ステロイド剤を中止させようとする場合が多いためである。
さらに自然主義的観点からプロトピックの使用も是としないことが多い(脱プロトピック)。当然これらの主張に医学的な根拠は無い。このような業者に脱ステロイド療法(およびそのビジネス独自の療法)を指示されて極端に悪化し、かゆみが強く夜も眠れないなど生活に支障をきたしたり、ひどい場合緊急入院という結果となる症例が多数発生し続けている。
少数ながら合併症による死亡例もある。また、アトピービジネスやマスコミによるステロイド剤の恐怖などの誇張した宣伝の結果、治療が難航している患者が自己判断で「脱ステロイド」を行い、症状が急激に悪化するという悲劇的な2次的被害もみられる。一時期、社会問題になったこともあった。

以上のように科学的根拠のないステロイド害悪論に基づいた「脱ステロイド」は危険であり、実施するに当たっては実際の病態がステロイドの副作用によってもたらされているのかを多数の医師とよく相談して判断した方が良い。その際、プロトピック軟膏やPUVA療法、シクロスポリンといった他の治療に切り替えながら様子をみることが多いので、それに関しても医師と十分に相談すべきである。

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